身柄拘束されている場合にいわゆる釈放されるための手続きとして保釈をイメージする方は多いと思います。ニュースでも著名人が逮捕されてからしばらく経ってから保釈されたという報道がされることも珍しくありません。ここでは保釈や保釈保証金、保釈条件についてご説明します。
保釈は、一言でいえば刑事事件で起訴された被告人が、一時的に身柄の拘束を解かれる制度です。保釈保証金の納付と保釈条件の順守を条件として、被告人の身柄を解放することを指します。
保釈は起訴された被告人に対して行うものですので、逮捕されてすぐにできるわけではありません。身柄拘束されてから起訴されるまでの期間は最大23日間ですので、起訴された当日に保釈請求が認められたとしても身柄拘束から解放されるまでは3週間以上を要することになります。実際には起訴状を確認しなければ適切な保釈請求ができない可能性や保釈保証金が予想に反し高額になる場合もありますので事案によっては起訴から数日を要してしまう場合もあります。そのため、保釈されたという報道は逮捕の報道からしばらく経過してからされるのです。
保釈と一言で言っても3種類があります。ただし、義務的保釈については身柄拘束の長期化を前提とする制度ですので、弁護人からの保釈請求が失敗していることが前提になります。
権利保釈: 法律で定められた事情がない限りは保釈請求を認めなければならないと定められています。①特定の罪で起訴されている場合、②一定の犯罪の前科がある場合、③証拠隠滅の恐れがあること、④住所不定のいずれかに該当する場合を除いて裁判官は保釈請求を認めなければなりません。①・②は起訴状を見たり、起訴される前に本人に確認すれば容易に分かります。③・④について主に主張することになります。証拠隠滅の危険と住所不定は場合によっては関連することもあります。例えば被害者や証人が自宅の近くに住んでいる場合には、意図しているか否かにかかわらず顔を合わせる可能性があります。それにより被害者や証人が委縮し、裁判で証言が得られなくなる場合には自宅から離れた実家などで親族の監督下で生活することで③・④の主張を一挙に解決できる場合もあります。
裁量保釈: 権利保釈が認められない場合でも、裁判所の裁量で保釈される制度です。考慮要素は逃亡又は罪証隠滅のおそれの程度や被告人の身体的・経済的・社会生活上・防御の不利益です。逃亡又は罪証隠滅のおそれの程度が低いことが必要なので、基本的には権利保釈が認められない理由のうち、①特定の罪で起訴されている場合と②一定の犯罪の前科がある場合に、それでも保釈を認めることを前提としています。
義務的保釈: 身柄拘束が不当に長くなった場合に、裁判所が独自の判断で保釈する制度です。
被告人、その弁護士、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹が保釈請求できます。
弁護人以外からの保釈請求がどれくらいされているかは分かりませんが、一応法律上は本人や親族等も保釈請求が可能です。
保釈が認められる場合、実際に身柄が解放されるためには保釈保証金を納付する必要があります。保釈保証金は裁判所が決定します。経験上は金額について事前に裁判官から打診が来ることが多いですが、最終的には裁判所の判断になります。保釈保証金は逃亡したり、保釈条件に違反した場合没収されてしまいます。
そのため、被告人にとって「没収されたくない金額」に設定されます。ニュースで著名人の保釈保証金が数千万円や数億円であるという報道がされたのを見たことがありますが、その金額は本人の収入や資産に基づいて決められています。多額の資産や収入がなければこのような金額になることはありませんが、最低でも150万円は要求されます。個人的な経験としても、調べた限りでも150万円を下回ることはまずないようです。保釈が認められても保釈保証金を納付しない限り実際の身柄解放はされないので、保釈請求をする場合は事前に保釈保証金を用意できるかを確認する必要があります。
保釈支援協会という保釈保証金を貸してくれる機関もありますが、手続きが煩雑なので早めに用意しない限り速やかな保釈請求が難しい・手数料がかかる・全額を貸してくれるわけではないといった問題もあります。
保釈保証金は没収されない限り、裁判が終了すれば有罪無罪にかかわらず返還されます。
実際に身柄解放がされた後は、基本的には通常通りの社会生活を送ることができます。仕事もできますし、外出も自由です。ただし、罪証隠滅や逃亡の防止のためにいくつかの条件が付されます。これは保釈条件と呼ばれ、これに違反すると、保釈が取り消されて再度身柄拘束されるうえ、保釈保証金が没収されてしまいます。典型的な内容は住居の指定・旅行の禁止・裁判所の呼び出しに応じること・被害者等の関係者への接触禁止です。これらの条件は基本的に付されます。事案によって別の条件が付与されることもあります。
保釈請求が認容される割合は統計的には30%前後です。犯罪の内容やその他の状況によって左右されるので、割合と確率は一致しませんが、少しでも保釈を実現しやすくするためにできることはあります。ここでは以下の3点を開設します。
身元引受人
保釈後に、被告人と同居し監督する旨を誓約してくれる身元引受人がいることを示すことは極めて重要です。法律上の条件ではありませんが、裁判所は、事実上不可欠の条件としており、身元引受人がいない保釈請求は通常認容されません。身元引受人は極端にいえばだれでもよいですが、同居していた家族や実家の親族が一般的です。身元引受人をお願いする際には署名押印を頂いた身元引受書と身分証の写しを裁判所に提出することが一般的です。実際に被告人が保釈条件に反したり、逃亡した場合でも犯人隠避などに該当しない限りは身元引受人が民事・刑事上の責任を負うことはありません。
証拠隠滅・逃亡の可能性がないことを示す
保釈請求は起訴後にされるため、捜査はすでに終了し、必要な物証は捜査機関側に保管されています。そのため、証拠隠滅の危険性はすでに相当程度低下しています。そのため、主に被害者や証人に接触して法廷で自身に有利な証言をさせたり、共犯者と口裏合わせをする危険がないことを示す必要があります。関係者と面識がない場合はそれを犯罪の内容などから主張する必要がありますし、面識があっても住所や連絡先を知らないことや、身元引受先を現場から離れた実家にするなどの対応が必要になります。また、示談を成功させることも重要です。示談は量刑上有利に扱われるため、わざわざ示談した被害者に接触して有利な証言をさせる必要がないからです。執行猶予判決が見込まれる場合も逃亡の恐れが低いと考えられています。
身体的・社会的・経済的不利益を示す
これはどちらかと言えば裁量保釈を求める場合に主張する事情です。例えば入院する必要がある持病があったり、一家の大黒柱で保釈許可を得て仕事をしないと家族の生活が破綻するなどの事情を主張することになります。実際に保釈請求をする際には、権利保釈を求めるのと同時に裁量保釈を求めることになります。「権利保釈が認められないとしても裁量保釈をしてください」と裁判所に請求するのです。
保釈は刑事手続において可能な身柄解放の手続きの中では保釈は成功する割合が最も高いですが、保釈保証金が必要になるほか、そもそも起訴されてからしかできないという特徴もあります。少しでも早く身柄解放を実現するためには早めのご依頼が必要不可欠です。そもそも不起訴を目指すための活動も可能ですので、まずはご相談ください。