刑事事件の被疑者として取り調べを受けた結果、起訴されてしまった場合、どのように裁判が進み、どのくらいの期間がかかるのかわからない方は多いと思います。当日の流れもご説明しますので、参考にしていただければ幸いです。なお、ここでは裁判員裁判以外の裁判であり、起訴された内容(「公訴事実」といいます)を認めている場合を対象にしています。
まず、起訴されてから1回目の裁判(「期日」といいます)が行われるのはおおよそ1か月から1か月半程度であることが多いです。起訴される時点では弁護人側には検察が持っている証拠は開示されていません。起訴されてから初めて証拠を目にすることになるのです。証拠も様々ですが、これを閲覧したりコピーを取ることで裁判への対応を考え、被告人と打ち合わせをしたうえで方針を決める必要があります。そのため、起訴されてすぐに裁判というわけにもいかないのです。
証拠の確認と検討のほかには、こちらから出す証拠の検討や証人尋問・被告人質問の準備を行います。こちらから提出する証拠は示談ができていれば示談書などが考えられます。証人尋問では多くの場合ご家族などの情状証人に被告人を見捨てずに監督していくことなどを裁判所で証言してもらいます。また、被告人質問はご本人が犯行時の心情、現在どう考えているか、今後再犯に及ばないためにどうするかを裁判官の前でお話してもらいます。
裁判の当日は、罪を認めている場合、①人定質問、②起訴状朗読、③黙秘権の告知、④被告人及び弁護人の意見陳述、⑤冒頭陳述、⑥証拠調べ請求と証拠意見、⑦証拠調べ、⑧被告人質問、⑨論告求刑・弁論、⑩被告人の最終陳述まで進むことが多いです。所要時間は何事もなければ1時間前後が多いです。
起訴状に書いてある被告人と裁判所に来ている人の同一性を確認します。具体的には氏名、生年月日、本籍、住所、職業を確認し、起訴状と一致しているか確認します。本籍地など正確に覚えていなくても裁判官がリードしてくれるため、ここで手続きが止まることは基本的にありません。緊張して上手く答えられなくても大丈夫です。
検察官が起訴状を読み上げます。読み上げる内容は具体的な犯罪の内容(いつどこで誰が何をどうした)というものと罪名及び罰条(「〇〇罪、刑法●●条」という形です)を読み上げます。
取り調べの際にも黙秘権は告知されますが、ここで改めて裁判官から黙秘権の告知があります。細かい部分は裁判官によりますが、「あなたには黙秘権があります。この裁判を通して黙秘することもできますし、話したくないことだけ黙秘することもできます。黙秘することであなたに不利益になることはありませんが、話した内容は有利にも不利にも扱われます。」と伝えられます。
ここでは起訴状記載の公訴事実について認めるか、間違っているか確認されます。ここでも黙秘することも可能です。被告人に確認した後に弁護人に意見を聞かれます。事前の打ち合わせができていれば被告人と同意見ですと述べて次の手続きに進みます。
ここでは検察官が、公訴事実のより詳しい概要や情状に関連する事実を述べます。弁護人が検察官の後に冒頭陳述を行うこともありますが、義務ではありません。
検察官の冒頭陳述の後、そのまま「以上の事実を証明するため、証拠関係カード記載の各証拠の取り調べを請求する」などと述べて証拠調べを求めます。証拠調べは大まかにいえば裁判官に証拠を見せる手続きです。刑事事件における証拠は裁判の場で初めて裁判官の目に触れることになります。
検察官が証拠調べを請求した証拠はすべて当然に裁判官の目に触れるわけではありません。弁護人からの証拠についての意見を述べたうえで証拠として採用されるか否か決定され、証拠に採用されたものだけが取り調べを受けます。
ここでは公訴事実を認めている場合を前提としていますが、それでも裁判官の目に触れさせるべきではない証拠がある場合は弁護人の立場から、その証拠の取り調べには同意しないという意見を述べることになります。実際には単に「不同意」と述べることになります。裁判官は証拠の採用又は不採用の決定をするに際して法律上弁護人の意見に拘束されるわけではありませんし、伝聞例外という問題もありますが、1回で審理の終結まで進む比較的軽微な犯罪である場合、検察官が取り下げるなどして裁判官の目には触れないまま手続きが終了することが多い印象です。
証拠意見を踏まえて採用された証拠の取り調べが行われます。供述調書や実況見分調書のような書面については検察官が概要を述べて裁判所に提出する形で行われます。
証人尋問もこの証拠調べ手続きで行われます。証人尋問は①請求した側(主尋問)、②もう一方(反対尋問)、③請求した側(再主尋問)、④裁判所(補充尋問)の順番で行われます。ご家族などに情状証人として証言していただく場合、①弁護人、②検察官、③弁護人、④裁判所の順になります。
情状証人の場合、主尋問は事前に打ち合わせのうえ弁護人からの質問に答えてもらい今後の監督の意思などを表明してもらいます、反対尋問では検察官から監督が可能なのか否かなどが質問されます。再主尋問は反対尋問を踏まえた補足があれば行います。裁判官からの質問は裁判官が確認したい事項があれば行われます。
被告人本人は証人ではないので証拠調べとは別の手続きとして行われます。弁護人から主尋問、検察官から反対尋問、再主尋問、補充尋問という流れで行われることは証人尋問と同じですが、被告人には黙秘権があるので黙秘することも可能です。公訴事実を認めている場合で黙秘しなければならないことは多くはないかもしれませんが、場合によっては可能です。
被告人質問が終わってから検察と弁護人が最終的な意見を述べます。検察が行うのが論告求刑で、起訴状記載の事実が証明されていること、被告人を厳罰に処す必要があることを述べたうえで懲役●年を求刑しますという形で終わります。
公訴事実を認める場合、弁護人からは有利な情状を踏まえて執行猶予判決や罰金刑を求めることが割合としては多いでしょう。法律上執行猶予を付すことができない場合は 刑期を短くするよう求めることになります。
最後に被告人に証言台に立ってもらい、言いたいことがありますかと裁判官から聞かれます。改めて反省の弁を述べることもありますが、何か話さないといけないわけではありません。
被告人の最終陳述まで1回で終われば判決の言い渡しを残すのみです。しかし、当然ながら裁判官が判決を書く必要があるのでその日に言い渡しというわけにはいきません。裁判官・検察官・弁護人日程調整の問題もありますが、公訴事実を認めており、1回で審理終結まで進む事件ですと、2週間程度後に判決言い渡しの期日が指定されることが多いです。
起訴されてからの期間でいうと統計的には3か月以内に6割以上が終結します。ここから追起訴されたり、証拠が膨大であったり公訴事実に争いがあったりすると審理に時間を要することになります。
長くなりましたが刑事裁判の流れと必要な期間をご説明しました、今回の説明は最も短く終わる類型を前提に説明していますので、一概にこの記事の通りに進むわけではありませんが、裁判の当日どのような流れで進むかもご参考になれば幸いです。
刑事裁判には法律上弁護人が必要不可欠です。しかし、裁判に十分に対応するためには起訴される前からの活動が不可欠です。また、そもそも起訴されることを回避するためにできることもあるかもしれません。一度ご相談ください。